大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(ワ)19220号 判決

原告

有吉眞

ほか一名

被告

関東西濃運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告有吉眞に対し、金三三万六七一六円、原告有吉美知子に対し、金二六万七九九四円並びに右各金員に対する平成元年七月一二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告ら連帯の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行するとができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告有吉眞に対し金七九万三〇七六円、原告有吉美知子に対し金五五万八八五九円及び右各金員に対する平成元年七月一二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  被告穴吹雅裕(以下「被告穴吹」という。)は、平成元年七月一二日午前一時二五分ころ、長野県小県郡東部町大字県一六四番地一先の交差点において、その過失に基づき、赤信号機に従つて停車していた原告有吉眞(以下「原告眞」という。)運転の普通乗用自動車(以下「被害車両」という。)に、自己の運転する大型貨物自動車(以下「加害車両」という。)を追突させて(以下「本件事故」という。)、被害車両を大破させ、また、原告眞に対し、頭部外傷、頸部挫傷、右肩関節打撲の、被害車両に同乗していた原告有吉美知子(以下「原告美知子」という。)に対し、頸椎捻挫の各傷害を負わせた(受傷の点については甲五、六、その余の事実は争いがない)。

2  被告穴吹は、被告関東西濃運輸株式会社(以下「被告会社」という。)の従業員であつて、その業務として被告会社の保有する加害車両を運転していて本件事故を引き起こした。したがつて、被告穴吹は民法七〇九条に基づき、被告会社は民法七一五条第一項に基づき(さらに人的損害に関しては自賠法三条に基づき)、いずれも本件事故により原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある(争いがない)。

二  本件の争点

本件事故による損害の有無及びその額。

第三争点に対する判断

一  物的損害について

1  被害車両の全損による損害(請求額原告各人につき三二万八九〇八円) 原告各人につき一六万四五〇五円

被告らは、原告らが夫婦であり、被害車両が原告ら夫婦のいずれに属するか明らかでない財産であることを明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。原告らの被害車両についての持分はそれぞれ二分の一というべきである。

(一) 車両本体価格

被害車両が修理不可能な、いわゆる全損の状態となつたことは当事者間に争いがないところ、このことによる原告らの損害は、本件事故当時の被害車両の車両価格とみるべきであり、右は、被害車両と同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得し得るに要する価額をもつて定むべきところ、このような価額を個別的に認定することは困難であることから、通常は、いわゆるレツドブツクによる中古車市場価格に求めるのが合理的というべきである。

ところで、原告らは、平成元年八月一九日に新たに中古車両を五九万円で購入したが、右購入車両はホンダアコードE―AD、昭和五八年六月登録、一八〇〇ccサルーンGX―Rであるところ、被害車両はホンダアコードE―SZ、昭和五八年五月登録、一八〇〇ccサルーンEX―Rであつて、両者は車種・年式・型等の点はほとんど同一といえることを理由とし、加えて、被害車両の任意保険満期日は本件事故後の平成元年八月三一日であつたが、かかる契約更新時における車両保険額は五〇万円とされていること、中古車販売情報誌によれば、栃木、群馬、茨城地区では被害車両と同一の車種・年式・型の車両が四九万円とされている例があること、被害車両は本件事故の一カ月半前に車検を取得したばかりであり、傷も全くなかつたことの各事実を掲げて、右購入車両価格五九万円は決して不当なものではなく、右価格をもつて被害車両と同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得し得る価額と個別的に定め得る旨主張する。

よつて検討するに、証拠(甲一三ないし一六、二一、四五、乙一、原告眞)によれば、原告らが、平成元年八月一九日に、昭和五八年六月登録のホンダアコードE―AD、一八〇〇ccサルーンGX―Rを五九万円で購入したこと、被害車両は昭和五八年五月登録のホンダアコードE―SZ、一八〇〇ccサルーンEX―Rであることは認められるものの、本件事故当時のレツドブツクによる中古車価格をみれば、ホンダアコードE―SZ、一八〇〇ccサルーンEX―Rのそれは三〇万円にすぎないのに、ホンダアコードE―AD、一八〇〇ccサルーンGX―Rのそれは四九万五〇〇〇円であることが認められ、これらの事実によれば、両者は明らかにグレードが異なるものというべきであるし(原告らは前者の方が後者よりグレードが上である旨主張するが右主張が失当であることは明らかである。)、また、原告らが主張するごとく、ほとんど同一の型の車両ともいえないというべきであるから、原告らの主張は採用することができない。また、証拠(甲一二の1)によれば、原告らが指摘する中古車販売情報誌(平成元年九月号)には栃木、群馬、茨城地区に昭和五八年式ホンダアコード四ドア一八〇〇EX―Rが四九万円であるとの例が一つ認められるが、右は販売業者の希望売却価格とみるべきものであること、中古車は同一の車種・年式・型であつても、使用状態・走行距離等の程度によつて価格は異なることは公知の事実であつて、わずか一例の右記載価格をもつて、被害車両と同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得し得る価額とみることはできないというべきであるし、証拠(甲二一、二三)によれば、被害車両の任意保険満期日は本件事故後の平成元年八月三一日であり、かかる契約更新時における車両保険額は五〇万円とされていたこと、被害車両は本件事故の一カ月半前に車検を取得したものであることが認められるものの、自動車総合保険の車両保険における保険金額は被保険車の再調達価格を正確に反映するものではないというべく、右保険金額のみから、被害車両と同一の車種・年式・型、同程度の使用状態、走行距離等の自動車を中古車市場において取得し得る価額を導き出すことはできないし、車検の残存期間の長短は中古車価格決定の一要素にすぎないものである。したがつて、原告らの掲げる前記の各事実をもつて被害車両の車両価格を認定することもできない。原告らの主張は到底採用できないというべく、本件事故当時の被害車両の車両価格は、個別的に認定することは困難であつて、レツドブツクによる中古車市場価格に求めざるを得ないこととなる。そして、レツドブツクによれば、被害車両と同型・同一年式の本件事故当時における中古車市場価格は三〇万円であること前記のとおりであるから、車両損害額は三〇万円と認めるのが相当である。

(二) 諸費用等

〈1〉 自動車税及び自動車重量税関係

原告らは、被害車両に関して、三万九五〇〇円の自動車税と二万五二〇〇円の自動車重量税を納付したとし、被害車両を滅失させられたのは、自動車税の賦課期日である四月一日から三・五カ月経過した時点であり、自動車重量税を納付した車検時から二カ月経過した時点であつて、自動車重量税については未経過の期間二二カ月に対応する部分二万三一〇〇円が、自動車税については未経過の期間八・五カ月に対応する部分から還付を受けた一万九八〇〇円を差し引いた八一八〇円が、それぞれ本件事故により生じた損害である旨主張する。

証拠(甲一八、一九、二一、四二の3、四五)及び弁論の全趣旨によれば、原告らが、被害車両に関して、平成元年四月一日を賦課期日とする自動車税三万九五〇〇円を、平成元年五月に車検を受けて自動車検査証の返付を受けるに際して自動車重量税二万五二〇〇円をそれぞれ納付したことが認められる。

そこで、自動車税、自動車重量税を納付した後に課税物件たる自動車が滅失した場合についてみるに、自動車税にあつては、納税義務が消滅したとしてその消滅した月までの月割りをもつて自動車税を課するとされているから(地方税法第一五〇条第二項参照)、自動車所有者は、自動車登録を抹消することにより納税義務を消滅させて、既に納付した自動車税のうちの登録抹消となつた日の属する月の翌月以降の部分に相当部分を月割りで還付を受けることができるのであるが、自動車重量税にあつては、このような還付の制度は設けられていない。これは、自動車税が自動車を所有しているという状態に対して課せられるものであるのに対し、自動車重量税は自動車につき車検を受けるという一回的な行為に対して課されるものであるという、それぞれの税の性格の差異に基づくものと解される。すなわち、自動車税は、一年分を一括して徴収されるが、所有の状態が続いているとみうる限りにおいて課税されるものであり、納税義務の消長に応じて還付によつて調整するものであるし、自動車重量税は、ひとたび納付して車検を受けた以上、その後の自動車の滅失によつて課税の根拠が揺らぐことはないから、還付の制度は必要ないのである。ところで、原告らが損害として主張するのは、自動車税に関しては、自動車が滅失となつた日から登録抹消の日の属する月の末日までの期間に対応する部分、自動車重量税に関しては、自動車が滅失となつた日から自動車検査証の有効期間の末日までの期間に対応する部分であり、いずれも、納付した税額に相当する金額を基準として、〇・五月単位で均等に割り出したものであつて、現行の地方税法、自動車重量税法の下では還付されない部分に相当する金額を独自の計算方法で算出したものというべきである。そして、原告らの主張は、そもそも税金としては還付されることのないこれらの部分に相当する金額が、加害者との関係においては、被害車両の滅失を余儀なくされたことによる損害に当たるとして別個に賠償の対象となるとするものと解するほかないところ、そのように解する根拠は見いだしがたいのであつて、原告らの主張は、独自の見解に基づくものというべく、採用することができない。

〈2〉 自賠責保険料関係

原告らは、被害車両につき平成元年六月二四日に二年間の契約で自賠責保険に加入し四万一八五〇円納付したが、加入後一カ月弱経過した段階で本件事故に遭つたため、これを解約したが返戻金は三万二五八〇円にすぎず、以下の計算式による差額分は、本件事故によつて生じた損害である旨主張する。

(計算式) 41850-41850÷24×1-32580=7527

自賠責保険は強制保険という性格上、無保険車の発生を防止するため解約が制限されているが、自動車について滅失等により抹消登録を受けた場合には、保険契約者の申出により解約できるとされており、この場合は、所定の解約保険料表に従つて解約に伴う保険料の返還を受けられるところであつて(自賠法第二〇条の二、約款第一〇条第一項、第一三条第二項参照)、保険期間途中において交通事故によつて自動車の滅失を余儀なくされた者であつても、登録抹消手続をとることにより保険契約を解約することができ所定の返戻金を受け得るのであるから、既に納付した保険料に関しては、自動車を滅失されたことによる損害として主張することはできないというべきである。原告らの主張は、返戻金につき月割りで計算した上で実際の返戻金との差額は、交通事故によつて生じた損害であるとして、加害者に対して賠償請求をなしうるとするものと解するほかないが、そのように解する根拠は見いだしがたく、独自の見解というべきであつて、採用することができない。

〈3〉 車検登録費用、車検手数料及び車庫証明費用

証拠(甲一三、四五、原告眞)によれば、原告らは、新規の自動車を購入するに際して、新規登録等の手続きを販売店に依頼し、車検登録費用として二八〇五円、車検登録手続代行費用(消費税込み)として二万四二〇五円、車庫証明費用として二〇〇〇円をそれぞれ支払つたことが認められるところ、右の金額は法定の手数料のほかに販売店への報酬を含むものではあるが、これらの手続は販売店に依頼してなされるのがほとんどであるという社会的実態に鑑み、右の金額の程度であれば、販売店への報酬部分も含めて、本件事故と相当因果関係のある損害と解するのが相当である。

2  被害車両に積載していた動産類(請求額原告眞につき二九万二三二三円、原告美知子につき三万二三二三円) 原告各人につき一万六四六四円

原告らは、本件事故により、フナンタナ製業務用鞄(二六万円)、マンテン製ベギーバギー(二万五六四七円)、ダンヒル製バツグ(三万九〇〇〇円)の使用が不能となつたため、右金額相当の損害を被つた旨主張する。

証拠(甲二七、四五、原告眞)によれば、本件事故によつて、原告眞所有にかかるフオンタナ製業務用鞄並びに原告らの共有にかかるベギーバギー及びダンヒル製バツグの各使用が不能となつたことが認められる。しかしながら、右業務用鞄については、本件事故当時における残存価格又は再調達価格を確定するに足りる証拠はなく、原告眞の右物件に関する損害の主張は採用できない。他方、ベギーバギーについては、購入日及び購入価格は不明ではあるが、証拠(甲二六、四五)によれば数回使用したに過ぎないこと及び他社の製品で同格のものの購入価格が二万五六四七円であることが認められ、これらの事実に照らせば、本件ベビーバギーは右の他社製品の購入価格の二割にあたる五一二九円の価値を有していたと解するのが相当である。また、ダンヒル製バツグに関しては、購入日及び購入価格は不明であるが、証拠(甲四五、四六、原告眞)によれば、同種商品の平成元年当時における定価は三万九〇〇〇円であつたこと、本件事故時に初めて使用するものであつたことが認められ、これらの事実に照らせば、同種製品の定価の七割にあたる二万七八〇〇円の価値を有していたと解するのが相当である。

二  人的損害について

1  交通費

(一) 通院交通費(請求額原告各人につき四三〇円) 認められない。

原告らは、長野市内の原告眞の妹宅から同市内の広岡脳神経外科に通院したとして、通院一回分のタクシー往復相当分の損害の発生を主張するところ、証拠(甲四五)によれば、通院の事実は認められるものの、妹運転の自動車に乗車させてもらつて往復したというのであるから、実際に交通費の支出を余儀なくされたわけではないというべく、損害の発生が認められない。

(二) 調書作成出頭交通費(請求額原告眞につき四二六〇円) 原告眞につき四二六〇円

証拠(甲八ないし一〇、三九、四五)によれば、原告眞は、事故捜査係の司法警察員の要請に応じて、平成元年七月一三日、JRあさま号(料金二五六〇円)とタクシー(一七〇〇円)を乗り継いで長野市内から上田警察署に出頭したことが認められるところ、原告眞は本件事故による被害を受けたがために警察署への出頭を余儀なくされたものというべく、要請に応じての自らの意思により出頭したことをもつて、出頭に要した費用四二六〇円が本件事故と相当因果関係にある損害であることを否定することはできない。

(三) 帰宅交通費(請求額原告各人につき八三〇五円) 原告各人につき七〇二五円

証拠(甲一一、四五)によれば、原告らは、いずれも、本件事故現場から長野市内の原告眞の妹の自宅を経て、長野市内からJRあさま号と電車(料金原告各人につき六三七〇円)、タクシー(原告ら併せて料金一三一〇円)を乗り継いで帰宅したことが認められる。右に要した交通費は本件事故による損害である。なお、事故現場から前記妹の自宅までは、妹運転の自動車によつており、交通費の支出を余儀なくされたわけではないから、この間の移動につきJRあさま号料金相当額を損害とする原告らの各請求は失当である。

2  休業損害(請求額原告眞につき一〇万円、原告美知子に八〇四三円)

原告眞につき九万四四六二円、原告美知子について認められない。

原告眞が弁護士であることは当事者間に争いがなく、証拠(甲四四)によれば、昭和六三年度の弁護士業による諸経費控除後の収入は一四一六万九三〇二円であるところ、これを、年間六五日程度の休日を除外して日当ベースに換算すれば、一日当たり四万七二三一円となること、原告眞は、平成元年七月一二日は通院のため、翌日は警察署への出頭のため、弁護士業務に支障をきたし二日間休業を余儀なくされたことが認められる。右によれば、原告眞の休業損害は九万四四六二円となる。

証拠(甲四五)によれば、原告美知子は、本件事故当時専業主婦として家事従事していたこと及び事故当日通院を余儀なくされたことが認められるものの、本件事故は夫である原告眞に随行して家族で原告眞の実家に向かう途中でのものであつて、少なくとも事故当日は家事に従事することを予定していなかつたものというべく、休業損害は生じなかつたというべきである。

3  慰謝料(請求額原告各人につき五万円) 原告各人につき五万円

本件事故は、深夜、不案内の土地での事故であり、生後一年に満たない原告らの長男も本件事故により額に傷を負い出血したこと(甲四五により認められる。)、被告穴吹の一方的過失による基づくものであること等のほか本件事故の態様その他本件に現れた一切の事情を勘案すると、慰謝料は原告各人につき五万円とみるのが相当である。

4  弁護士費用(請求額原告美知子につき一二万二〇〇〇円) 原告美知子につき三万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は三万円と認めるのが相当である。

三  まとめ

以上のとおりであるから、原告らの請求は、被告関東西濃運輸株式会社に対し、民法七一五条第一項に基づく損害賠償として(さらに人的損害については自賠法三条本文)、被告穴吹に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償として、連帯して、原告眞に三三万六七一六円、原告美知子に二六万七九九四円並びにこれらに対する本件事故の日である平成元年七月一二日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから、これらを認容することとし、その余の請求はいずれも失当であるから棄却することとする。

(裁判官 齋藤大巳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例